2016年02月02日

節分に関係する植物と言えばヒイラギですね

節分が近づいて来ました。節分に関係する植物と言えば、ヒイラギ(柊)。そのヒイラギについて、当演習林の元・技術補佐員である和田慎氏から寄稿いただきましたので、ご紹介します。

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 2月3日は「節分」です。暦のことばとしては季節の移り変わる時、つまり立春・立夏・立秋・立冬の前日の呼び名ですが、「節分」といえば立春前日の「豆撒き」を思い浮かべますよね。

 この行事は、奈良時代より少し前の文武天皇期(在位:697〜707)に中国から伝わり宮中で確立した「追儺(ついな)」という儀式が元となっているようです。
 大晦日の夜、悪鬼(鬼に扮装した舎人)を内裏の四門をめぐって追いまわし、殿上人が桃の弓、葦の矢で鬼を射るのだそうです。「おにやらい」とも呼ばれ、奈良時代に寺社の行事として広まったとされています。この行事が民間に広まる過程で、ヒイラギは邪鬼を追い払うために門柱に飾られるようになったと考えられています。

ヒイラギ

写真Aヒイラギ.jpg


 松江市周辺部でも大晦日に豆撒きをする地域(美保関町北浦)、節分の夜にソバを食べる地域(八雲町・忌部町)などが残っていること、豆撒きの後それぞれが数え年分の豆を食べることから考えると、「節分」は迎春、つまり年を改めるための行事だったのでしょう。

 「節分」で使うヒイラギに干しイワシを刺すようになったのがいつ頃かは定かでないのですが、松江の町では昭和初期まで竹串にイワシとヒイラギの葉を挟んだ「ヤイ(ヤエ)クサシ」を売っていたそうです。
 島根町加賀ではカヤの先を裂いて干しイワシを挟んでいたようで、追儺の葦の矢とのつながりを感じさせます。また、八雲町ではサンショウの木を割ってヒイラギの葉と干しイワシを挟んでいたようで、トゲが魔除けに通じると考えられます。(「松江市史」別編2「民俗」参照)

 常緑でトゲのある葉が年間行事の中で重要な例は、ヨーロッパにも見られます。
 クリスマス・ケーキの飾り物でよく見かけるセイヨウヒイラギ(hollywood)は、「ヒイラギ」とは言ってもモチノキ科でヒイラギとは縁の遠い関係です。古代ローマ帝国の時代、冬至前後に行われていた農神祭(サトゥルナラニ)で聖なる木として供えられていたのがキリスト教にも取り込またようです。常緑で赤い実があることから、十字架上のキリストから落ちた赤い血が永遠の命であることを表すのだそうです。(平凡社「世界大百科」セイヨウヒイラギ項要約)。
 最近は中国や朝鮮半島南部に分布するヒイラギモチ(モチノキ科)もクリスマスの飾りとしてよく見かけます。

ヒイラギモチ

写真Bヒイラギモチ.jpg


 ヒイラギモクセイは、ヒイラギとギンモクセイの雑種とされ、娘のいるお家の生垣として好まれるそうです。

ヒイラギモクセイ

写真Cヒイラギモクセイ.jpg


 蛇足です。「恵方巻」の起源をどの時点とするかは難しいですが、1978(昭和53)年に全国海苔貝類漁業協同組合連合会が2月3日を「のり巻きの日」と定めたことは、恵方巻の風習が全国的に広がるのに一役買ったことでしょう。恵方巻の風習は、それはそれでよいと思いますが、イワシの生臭さで鬼を遠ざけようとする考えとはかなりかけ離れているようにも思えます。


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2016年01月06日

門松にも使われるナンテンについて

明けましておめでとうございます。今年もどうぞよろしくお願いします。

さて、ナンテンについて、当演習林の元・技術補佐員である和田慎氏から寄稿いただきましたので、ご紹介します。

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 謹賀新年
 本年も宜しくお願いいたします。

  お正月、松江城へ行ってみました。本丸御門に置かれている門松がとても豪華でした。
門松01.jpg

門松02.jpg


 松江歴史館の門松もきれいに飾られていました。
門松03.jpg


 特にセンリョウ、マンリョウ、ナンテンの赤が印象的でした。そこでナンテンについてちょっと調べてみました。

 ナンテン(メギ科ナンテン属の常緑低木)は日本、中国中央部に野生種もあるのが知られていますが、日本ではほとんどが庭木として栽培されています。
ナンテン 01.jpg

ナンテン 02.jpg

 
 平安時代の歌人藤原定家の「明月記」(1180年-1235年)にも栽培の記録があるそうです。(「週刊朝日百科 植物の世界」94 G P.314)

 姿が美しいことに加え、「難を転じる」めでたい木とされていたようです。特にナンテンを家の周りに植えると火災から逃れられるとして、庭木として広まったようです。戦国時代の武将は縁起を担ぎ鎧櫃(よろいびつ=鎧を運ぶときの箱)の中にナンテンの葉を添えていたと言われています。

 ナンテンの実にはアルカロイドであるドメスティンが含まれ、民間で喘息、百日咳などの鎮咳薬として使われていたそうです。(平凡社「世界大百科」ナンテン項 )
 今でもナンテンの名を冠したのど飴が売られていますね。

 沖村義人著 「樹木の島根方言」(1988) によりますと、旧八束郡や大田市では、ナンテンで小さな瓢箪型のものを作り、麻疹が軽くなるようにと子どもの体につけさせていたようです。
 また、一畑薬師では、中風予防の為にナンテンの箸や杯を売っていたとのこと。これも樹皮にアルカロイドが含まれていたことに拠るそうです。(同書 P.132)

 山陰地方の古民家は便所が別棟になっていますが、手水鉢のそばにナンテンが植えてあり、水が無いときはナンテンの葉で手を揉む習慣があったそうです。 (高齢者からの伝聞)
 おせち料理や赤飯の入った重箱、鯛の塩焼きなど魚料理にナンテンの葉を添えるのも、アルカロイドの抗菌作用に期待するからなのでしょう。


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2015年12月25日

今日はクリスマス。クリスマスといえば…

年の瀬が近づいて来ましたね。このブログについては、これが年内は最後の投稿となるでしょう。「そもそも、元々そんなに更新してねえだろ」って話ではあるんですが…

さて、今日はクリスマス。クリスマス・ツリーに使われるのは、もみの木。「おお、モミの木よ」というクリスマス・ソングもあり、例えばナット・キング・コールが歌うこの歌とか素敵ですよね。
(必ずしもモミAbies firmaとは限らず、その土地土地のああいう感じの木をツリーにしているようではありますが…)
leaf01.jpg


このモミについて、当演習林の元・技術補佐員である和田慎氏から寄稿いただきましたので、ご紹介します。

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 三瓶演習林の事務所前には大きなモミがあります。樹高は20m以上あります。
三瓶事務所.jpg


 モミといえば「クリスマス・ツリー」を思い浮かべることでしょう。
 「クリスマス・ツリー」はドイツ文化圏に起源を持つとと言われています。 “黒い森”で有名なドイツ南西部のフライブルグ近郊では、古代からモミの木を崇拝していたそうです。
写真A モミ.jpg

*写真提供は和田慎氏。


 モミの木は四季をを通じて葉をつけることから、闇と死と寒さが支配する冬の世界にあって希望と堅実さのシンボルとされ、冬至の祭りで使われていたのがクリスマスと結びついたと考えられています。しかし、これがドイツ全体に広まったのは19世紀になってからだとのこと。(ただし、ドイツモミはマツ科トウヒ属で、モミはマツ科モミ属。)

 またドイツでは、モミには生長の霊が宿るとして、家の棟上式で破風の上に飾られたり、家畜小屋の扉に飾って悪疫除けにも使われていたそうです。(以上は平凡社「世界大百科」モミ項を要約)

 さて、話が変わるようですが、冬になると山陰地方では「赤貝」(サルボウガイ)がよく出回ります。近年はほとんどが有明海産です。1950年代には中海で年間約1900トンの漁獲高があったそうですが、干拓事業や生活廃水による水質悪化でほとんど獲れなくなりました。
 最近、中海での試験養殖が成功し、今年は11月29日から松江市内での中海産赤貝の販売が始まりました(かなり割高‥‥)。

 それがモミとどう関係があるかと言いますと、1960年代前半まで中海の赤貝漁では「ソリコ」という刳り舟(モミの木を刳り抜いて作った舟)が使われていました。
写真Cソリコ2-1.jpg

*写真提供は和田慎氏。島根県立古代出雲歴史博物館の許可を得て掲載しています。


 「ソリコ」は舟の底面(オモキ)が大きく反っていてローリング(横揺れ)しやすく、赤貝漁で使う「アカガイケタ(赤貝桁)」という漁具を曳く際に海底の泥砂に懸かりにくい構造であったそうです。
 
 1960年代前期、島根県で「ソリコ」を製作できる船大工は3名いたそうです(旧地名:八束郡八束村入江のY氏・松江市大海崎のF氏・八束郡東出雲町下意東のW氏=石塚尊俊著「鑪と刳船」P.299)。
 中海で赤貝漁が復活しても「ソリコ」を作ることのできる船大工は既に途絶えているので、「ソリコ」漁を見ることはできないでしょう。

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やあ、何とかクリスマスに間に合った… 島根県立古代出雲歴史博物館の学芸員の方にはお世話になりました。ありがとうございました。

それでは、みなさま、よいクリスマスを。


posted by 島根大学演習林 at 13:42| Comment(0) | TrackBack(0) | 植物 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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